研究課題
基盤研究(B)
本研究は我々がこれまでに明らかにした、アラビドプシスのTFL1/FTファミリータンパク質の植物細胞間移動の分子メカニズムを解明すると共に、これらの植物細胞間を移動するタンパク質によってどの様なシグナルが細胞間に伝達されるのかを明らかにすることを目的として実施した。具体的には、TFL1/FTタンパク質の分子解剖によって、細胞間移行に必要なドメインあるいはシグナルペプチドを明らかにした。アラビドプシスのFTは長日刺激に応答し、花成を強く促進する花成統合因子の一つである。花成は栄養期茎頂から花序茎頂への転換であり、FTの機能は茎頂で必要と考えられているが、我々はFTは葉の先端部の維管束でのみ発現することを明らかにした。上記の様にFTも細胞間移行能を持つことから、本研究では「長日刺激によって葉で発現したFTが、その細胞間移行能によって花成促進シグナルを茎頂に伝達する」という作業仮説が正しかったことを明らかにした。近年、植物の発生過程においてタンパク質の細胞間移行が重要であることが示されてきた。これは植物固有に見られるものであり、タンパク質は必要とされる細胞で転写・翻訳されるという常識から逸脱するものとして注目を集めている。この様な植物細胞間を移行するタンパク質として、これまでにトウモロコシのKN1やシロイヌナズナのLFY,SHRなどいくつかのタンパク質が報告されているが、これらは全て核局在の転写因子であり、細胞間移動の生物学的意味も明確ではなく、積極的な細胞間移動ではないとする説もある。これに対して、本研究で取り上げるTFL1/FTは、その相同性や細胞内局在から転写因子ではなく、また我々のこれまでの研究から細胞間移行はその機能にとって必須であると考えられる。さらに従来の研究では細胞間移行に関するメカニズムについてはほとんど明らかにされていない。以上のことから、本研究で明らかになった、TFL1/FTタンパク質の細胞間移行は、卓越した研究成果である。
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