研究概要 |
本研究では、Tリンパ球が抗原提示細胞上のペプチド・MHC複合体の認識、活性化する分子機構の一分子レベルでの解析を目指している。そのため3つのシステム改良を導入した:抗原提示細胞の代わりに、GPI型MHC、 ICAM1を用いた人工脂質二重膜のplanar membraneシステム、TCR-Tg由来の正常T細胞に蛍光標識シグナル分子を導入したT細胞を用いる、及び一分子解析が可能な解像力の全反射レーザー顕微鏡(TIRF)での観察、である。既に昨年度、抗原刺激に伴いTCRマイクロクラスターが形成され活性化シグナルを誘導することを見いだした。一分子レベルでの解析から、ミクロクラスターには50-300のTCRが集積し活性化初期にはT細胞の接着面全体に形成され中心に移動し、免疫シナプス(cSMAC)が形成される後期には、接着面の辺縁領域のみで形成されることが判明した。これから、T細胞の長期にわたる活性化維持において、辺縁部で形成されたミクロクラスターがT細胞活性化維持のシグナルを形成する場として機能している。ミクロクラスターに集結して活性化シグナルを伝達する下流の一連の分子を同様に解析した結果、Lck, LAT, SLP-76, PLCγ,Vav, PI3 kinase,が抗原刺激に伴い、早期にミクロクラスターを形成することが判明した。一方、より下流の分子としての、MEK, Erk, Ras, Carmal, Bc110など、Ras活性化やNF-κB活性化に直接関与する活化経路の分子群は、TCRミクロクラスターに集積しないことが判明した。更に、T細胞活性化に必須のco-stimulationシグナルについての解析から、主要な受容体CD28もミクロクラスターに集積するとともに、CD28がリガンドCD80の存在下で、NF-κB活性化に重要なPKCθをミクロクラスターにリクルートすることが示唆された。これまでPKCθはcSMACに集積する代表的分子として知られていたが、その誘導機構は不明であり、今回初めてco-stimulationに伴って制御されることが示唆され、成果を収めた。
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