研究概要 |
成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)発症の分子機構は不明な点が多い.他の造血器腫瘍に比較して,染色体遺伝子異常が非常に複雑なためである.染色体分染法による解析では,第14染色体長腕(14q),とくに14q11と14q32に切断点の集中することが示されている.今回の研究では,ATLL45例について,多色蛍光染色体解析(multicolor spectral karyotyping, SKY)法とFISH法で染色体異常を解析した.その中でも14q11に切断点を有すると考えられる症例に対しては,FISH法を用いTCRa/δ遺伝子領域の切断点を検討した.45例中11例(24%)で,14q11と考えられる領域に切断点を認めた.11例中4例でTCRa/δ遺伝子領域近傍に切断点を確認し,DNAレベルで共通した切断点が示唆された.残りの7例ではTCRa/δ遺伝子領域よりもさらにセントロメア側に切断点が同定された.TCRa/δ遺伝子領域近傍に切断点を確認した4例では,14q11と14q32の間で再構成が生じており,inv(14)の1例では切断点がBCL11B遺伝子近傍にあった.2例においては,long distance-PCRによって作成した約10kbの長さのプローブを用いたFISH法で切断点をTCRa/δ遺伝子領域の中に特定できた.同時に行ったゲノムアレイ解析でもFISH法で得られたデータと相関する結果が得られた.従って,TCRa/δ遺伝子とBCL11B遺伝子の再構成が示唆された. 一方,TCR遺伝子の染色体再構成を細胞核で検出するために,TCRa/δ,TCRβ,TCRγ遺伝子とその近傍をカバーするBACクローンを用いてFISHプローブを作成した.各々,14q11,7q35,7p15領域を二色FISH法でスプリットシグナルとして検出することができるようになった.TCR遺伝子再構成の間期核診断に有用であり,臨床検査法として確立した.さらに,TCR遺伝子領域のBACクローンによるFISHとSKYを同時に行う方法(SKY-FISH法)を確立した.それによって,TCR遺伝子染色体転座の相手遺伝子を容易に同定できるようにした.
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