研究概要 |
Notch受容体を介するシグナルにより、造血幹細胞の未分化性を維持したまま増幅することが可能である。しかし骨髄のnicheにおいて造血幹細胞が自己複製する際に、Notchシグナルが重要な役割を果たすかについては明かでない。今回、Notch1及びNotch2遺伝子を種々に欠失するマウス、あるいはNotch阻害薬であるY001027を投与した野生型マウスを用いて、この疑問へのアプローチを試みた。Notch1+/-Notch2+/-マウスに抗腫瘍薬である5-FUを投与、あるいは野生型マウスに5-FUを投与しその後Y001027を投与し、骨髄回復期に造血幹細胞濃縮画分であるLin-Scal+cKit+(LSK)細胞またはCD34-LSK細胞の絶対数を比較した。しかし期待に反し、これらの実験ではコントロールマウスあるいはY001027を投与しない野生型マウスとの間に明確な差は認められず、Notchシグナルが生理的に造血幹細胞維持に関与することは証明できなかった。 一方、ヒトES細胞から造血幹細胞への分化誘導が可能となれば、臨床使用を目的とするES細胞由来血球の工業生産システム構築など、さまざまな応用が考えられる。本研究では、胎生期の造血幹細胞発生にとってNotchシグナルが重要な役割を果たすという我々自身の知見を応用し、Notchリガンドを用いることによりヒトES細胞から造血幹細胞への誘導が可能かを検討した。ヒトES細胞はKhES-3を用いた。種々の培養法でKhES-3を分化誘導させ、造血幹(前駆)細胞のマーカー候補とされるCD34,CD133,KDR, CD90,CD150,CD105,PCLP-1,PECAM1,and VE-Cadherin.などの表面マーカーを組み合わせて分取し、造血活性を評価した。しかしながら、これらのマーカーで得られる細胞はいずれも血管内皮細胞やマクロファージへの分化能を示したものの、著明な造血幹(前駆)細胞活性を示す細胞を同定することはできなかった。
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