研究概要 |
本研究は臼歯抜歯による咬合支持の欠如とその後の咬合回復が記憶に与える影響,および,連続学習と分散学習が空間記憶の忘却に与える影響について明らかにすることを目的とした。 8週齢のウィスター系雄性ラット60匹を連続学習群と分散学習群に2分し,各群をさらに対照群,義歯装着群,抜歯群に再分した。空間学習能の評価には8方向放射状迷路装置を使用した。50週齢まで老化させ,迷路課題の記憶を獲得,固定させるための予備試行を20日間行った。その後,連続学習群は5日毎に8回,分散学習群は,5,10,15および20日毎にそれぞれ2回ずつの試行を行い,各群ともに8回目の試行から20日後に空間記憶の忘却を評価するための試行を行った。評価項目として,エラー数,試行時間などを計測した。迷路課題終了後,海馬脳組織の形態学的変化を観察するためニッスル染色を行い,単位面積あたりの海馬錐体細胞数を測定した。実験データは,分散分析で検定後,Tukey法にて多重比較を行った。 迷路課題では,第8試行と第9試行の20日の間隔によって連続学習3群ではそれぞれ有意にエラー数が増加したが,分散学習群では増加を認めなかった。また,第8試行までは連続学習3群間には有意差はなかったが,第9試行では臼歯抜歯群では他の2群に比べて有意にエラー数が増加した。試行時間に関してはどの群も経時的にやや増加傾向を示すが300秒前後を推移した。単位面積あたりの錐体細胞数は,連続学習ならびに分散学習群のいずれにおいてもCA1,CA4領域では対照群,義歯装着群,抜歯群の順に有意に多かった。 これらの結果から,脳細胞に変性による記憶の忘却は臼歯抜歯によって促進され,実験義歯による咬合の回復によって抑制された。また,分散学習法は連続学習法と比較し試行間隔の延長に伴う記憶の忘却を抑制することが示唆された。
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