研究概要 |
【緒言】MHC class 1 chain-related molecule A(MICA)は、ナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞などの免疫細胞の活性化受容体であるNKG2Dのリガンドであり、ストレスや感染を受けた細胞および種々の腫瘍細胞に発現が誘導されると考えられている。一方、癌細胞表面にMICA蛋白が発現しているにも関わらずNK緬胞などによって癌細胞が排除されないのは、何らかの免疫回避システムが存在すると考えられており、その一つとして可溶性MICA(sMICA)が考えられている。 Transforming Growth Factor(TGF)-βは細胞性免疫抑制性に作用し、NKG2Dの発現を抑制することが報告されでいる。TGF-βシグナルの異常は癌の発生・進展に関与することが明らかになっている。 【目的】本研究では、sMICA産生機構の解明およびMICA分子とOSCG患者の臨床病態との関連性を明らかにすりことを目指した。 【方法】OSCC組織におけるMICA蛋白の発現を免疫組織化学的に検討するともに、OSCC患者血清中sMICAをELISA法を用いて定量し、臨床病態との関連性ついて検討した。次に、OSCC細胞株KO細胞の培養上清より、sMICAを精製し、脱糖鎖処理およびTOF-MSを用いた質量解析により切断部位の同定を行った。さらに、OSCC細胞株KO細胞を用いてMICA蛋白およびsMICAの発現におけるTGF-β_<1/2>の機能を、TGF-β_<1/2>siRNAを用いて検討した。 【結果】1.免疫組織化学的検討の結果、発現様式や強度に差はあるものの全例においてMICA蛋白の発現を認め、MMPsを高発現している浸潤部では、MICAの細胞表面での発現は低下あるいは消失していた。また、進展例では、癌細胞表面でのMICA発現は低下し、間質組織での発現は低下あるいは消失していた。また,進展例では、癌細胞表面でのMICA発現は低下し、間質組織での発現が上昇していた。さらにMICAの癌細胞表面での発現と化学療法や光線力学療法などの治療効果は相関傾向を示した。血清sMICA濃度は、癌の進展、再発や転移に伴い上昇した。さらに腫瘍血管内皮および平滑筋細胞でMICA発現を示す症例では血清sMICA濃度は有意に低値を示した。 2.OSCC細胞株KO細胞の培養上清よりsMICAを精製し、脱糖鎖処理および質量解析により、SMICAの分子量は約24,000であることが判明し、sMICAはMICA分子のα3ドメインの前半部分(前半部分とは?どちらからか?細胞膜側からかN-末端側からか?)で切断されている可能性が考えられた。 3.無血清培養系にて、TGF-β_<1/2>によりKO細胞の細胞表面におけるMICA蛋白の発現は低下し,培養上清中へのsMICAの産生は促進された。一方、TGF-β_<1/2>siRNA導入KO細胞では,細胞表面MICA蛋白の発現は亢進し、培養上清中へのsMICAの産生は著しく抑制された。また、TGF-β_<1/2>によりMMP-2,-3,-8,-9mRNA発現およびzymographyによるMMP-2,-3,-8,-9活性の上昇を認め、MMPs特異的阻害剤により細胞表面MICA蛋白の発現は上昇し、培養上清中へのsMICAの産生は抑制されることが明らかとなった。 【考察】癌細胞におけるsMICAおよびsMICAのα3ドメイン領域で切断・産生され、担癌生体の全身免疫回避に重要な働きをしているのみならず、腫瘍局所、特に浸潤部位においてNK細胞などの機能を抑制することで、浸潤・転移の獲得にも重要な役割を果たしていると考えられた。さらに、癌細胞におけるMICA発現や血清sMICA濃度は臨床病態と相関していたことから、MICAは口腔癌の新たな分子標的として有用であると考えられた。
|