研究概要 |
離散的信号処理はユニタリ行列に関わる行列理論の一つである.本研究の目的は,従来の各種信号処理手法が依拠する行列理論が用いる係数体を複素数体やClifford代数体(四元数体等)を含めたものへ拡張する画像(信号)処理・復元手法の構築の可能性の基礎的検討である.既存の信号解析の主要な方法の(複素)フーリエ解析を対象にして詳細な検討を対称群との関連で行い,フーリエ変換と対称群の要素の置換行列の関係を新たに発見した.フーリエ変換と対称群との関係に基づき一般のユニタリ行列に内在する2個以上の対称性をもつ場合への理論的拡張への可能性を検討した.既存のフーリエ解析の四元数やClifford代数体(高次複素数体)への拡張は,虚数単位を四元数単位ベクトルに置き換える拡張はフーリエ変換の位数2の対称群の置換が深く関わっていることを明らかにした.このフーリエ解析の四元数やClifford代数体への拡張の手法は,ユニタリ行列の対称性が偶奇対称性のように対称性が位数2ではない場合,このままでは一般のユニタリ行列に適用できない.本研究では,すべての固有値が有限位数をもつユニタリ行列が本質的に関連する位数2とは限らない対称性を四元数やClifford代数体(高次複素数体)を用いて拡張するための理論的基礎を検討し,その拡張の方向性を見出した.1次元信号においてe個の対称性に係るユニタリ行列を,2次元信号に適用するときにe^2個の対称性に対して,対称性の縮退を起こさないようにe^2個の相異なるCl_nのvolume elementを用いて,Cl_nの中でe^2個の対称性を保持するようなユニタリ行列のCl_nへの埋め込みを一般に構成することは困難であることが示唆された.Cl_nの可換な部分体BやR_2n,0^+を用いた場合,e^2個の対称性が約半数強の対称性しか保持できなく,半数弱の対称性の縮退が生じてしまうが,ユニタリ行列をCl_nに埋め込むことが可能であることが示唆された.2次元信号の対称性が2以上の場合,Cl_nの要素を成分とする行列によるKronecker積表示を用いることで解析が可能であることが示唆されたが,3次元以上の多次元信号についてはテンソル積の表示となり,その解析は今後の課題である.
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