研究概要 |
人の空間認識能力や形状構築能力の評価は,脳の負傷や障害を検査し診断するための重要な医療ツールであり,さらに,脳の認知機能を解明しようとする研究においても不可欠なものである.これらの評価は,患者や被験者に,心的回転(mental rotation)のような純粋な認知タスクを与えるだけではなく,ブロックを配置したり,提示された通りにパズルのピースを並べるといった構築タスクを与えることによって実施されるのが一般的である. これらの構築タスクは,空間認識能力のみならず,知覚・計画・実行といった実際に日常生活で必要とする能力を評価することが可能である.これまでにいくつかの研究において,2次元ではなく3次元形状を用いた構築タスクによる評価が重要であり,有益であることが示されている.我々は,ブロックを提示された形状の通りに組み立てるという,3次元形状を用いた構築タスクを被験者に与え,コンピュータでその構築データを取得し,解析することで,人の空間認知能力評価を行うユーザインタフェースを提案し,検討を進めてきた. 本研究では,このユーザインタフェースを子供の脳障害の一つである発達性協調作業障害(DCD)に適用することを目的に,システムの変更と実際の被験者による被験者実験を行った. このシステムの被験者は子供であるため,これまである程度,力の必要であったブロックの接続を,強力な磁石を用いてサポートすることで,子供でも容易にブロックの構築ができるようにし,さらに組み立て形状が崩れてしまう問題の解決を平成17年度に図った.平成18年度は実際に被験者実験を行った.その結果,これまで崩れていたためにノイズが多く含まれていた実験データのノイズが低減され,実験データの信頼性が向上した.また,被験者は形状の構築に集中できるようになった.一方で新たな課題として,DCDとそうでない被験者を決定づける閾値の導出が挙げられる.これは数学的に算出できるものではなく,より多くの被験者実験を通して行う必要がある.
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