研究概要 |
本研究は,従来数値データとして定量的に扱われていた図形や画像などのデータに対し,それらを記号表現によって定性的に扱う新しいモデルを提案し,そのモデルに基づいた高速で高度な推論力を持つソフトウェアの実現を目指すものである.本研究の研究代表者による科研費基盤研究の成果として,点,線,閉路,範囲という簡単なオブジェクトを基礎とし,それらにいくつかの束縛条件を付加することで空間データを記号的に表現する枠組みPLCAが既に提案されている.本研究ではこのPLCAの諸性質を明らかにし,応用の可能性を探った. 研究成果は以下の通りである. 1.PLCA上でオブジェクト同士の結合,分割などの操作を定義し,図形上の操作と対応させてその正当性を証明した.この結果,形や大きさの情報を持たない記号表現に対して正しい操作ができるため,定量的な計算を必要としない問題に対して計算量を軽減できる. 2.PLCA表現に対し二次元平面上に埋め込み可能な条件を発見しその証明を行なった.さらに,条件を満たすPLCA表現から二次元平面上に図形を描くアルゴリズムを与えその正当性を証明した.この結果,PLCA表現の二次元平面との関係が明らかになった. 3.PLCA表現の上に形や大きさのような属性,領域上で成り立つ性質(意味情報)などを付加した体系とその上での推論アルゴリズムを構築した.この結果GIS上の推論,デザイン支援などへのPLCAの応用の可能性が広がった. 4.mereology(全体と部分との関係を扱う考え方),位相幾何,グラフ理論や従来の定性空間推論との関係について考察した.特にグラフ理論との対応付けによってPLCAの理論的な解析を行なうことができた. 5.PLCAの核部分をJava,推論部分をPrologで実装したプロトタイプシステムを作成した.このシステムは定量的図形表現と定性的記号表現を結ぶシステムといえる.
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