研究概要 |
ユーザビリティ評価手法の中でインスペクション法に類別される認知的ウォークスルー法(CW法)は,分析者自身がユーザの振舞いをシミュレートしながら一連の質問に回答することによって,システムとの円滑なインタラクションの妨げとなる問題点を洗い出す評価手法である.CW法は漸次改良が加えられてきたが,実用性を重視して簡略化された第3版では質問記述が抽象的で回答しにくいといった問題が指摘されている.本研究では,操作の対象と行為の区別および知覚と解釈の区別を導入してD. A. Normanの7段階モデルを拡張した.その拡張モデルに基づき質問項目の見直しと明確化を図り,CW法の改良を試みた.Webユーザビリティ評価を題材として問題発見効率について比較実験を行った結果,評価対象の特性を考慮して自明な質問を省略することによって,改良版のCW法は第3版と同等の回答時間でより高い問題検出率を示すことが確認された. 比較実験の実施にあたってはCW法評価支援システムを開発し,複数の実験協力者からインターネットを介して並行して回答データ収集を行った.この評価支援システムは,CW法に限らず様々なインスペクション法による評価が統合的に実施できるように,アンケート調査と回答データ入力を支援する機能が実現されている.さらに,支援ツール自身のアクセシビリティにも配慮し,CW法による評価を障害者自身によって遠隔地からも実施することが可能となっている.この評価支援システムを用いて,障害者自身(全盲2名,強度の弱視2名)によるWebサイト評価をオンラインの遠隔評価によって実施した結果,支援ツールの実用性について一定の評価を得ることができた.この支援システムは障害者や高齢者を含む様々な特性のユーザから評価データを収集するとともに,多様なユーザが分析者として参加する遠隔ユーザビリティ評価の実施手順を確立していくために有効な手段となることが期待される.
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