研究概要 |
研究代表者らが作成した、5-HT神経系の初期発生異常を本態とする自閉症モデルラットは、疫学的に自閉症発症率を高めることが知られている催奇形性物質、サリドマイド(THAL)、またはバルプロ酸・ナトリウム(VPA)のいずれかを胎生9日のラットに暴露して得られる仔ラットである。今回の申請課題では、このモデルラットにおける以下の特徴を検索することができた。 1.THAL投与による自閉症モデルラットと正常コントロールラットの暴露後の胎生期及び生後50日の海馬における、5-HTT mRNA発現定量の結果、薬剤暴露2日後のE11の5-HTT mRNA量は、正常コントロールと差を認めなかったのに対し、E13ではTHAL暴露群での有意な低下を認め、E15になると逆に、有意な上昇を認めた。また、生後50日のモデルラット海馬においては、THAL暴露群における5-HTT発現量がコントロールに比較して、有意に低下しているという結果が得られた。 2.DNAマイクロアレイ法を用いてTHAL、VPA暴露によるモデルラットと、正常コントロールでの海馬における遺伝子発現比較を行った結果、その発現量がP20,30,40,50でそれぞれ増加、減少している遺伝子が多く発見された。特に、neurotransmitter遺伝子群では、ドパミンレセプターが、特にP20,30で発現が低下し、その後増加している傾向がVPA、THAL群共に見られる。以前の研究代表者らの検索でも、VPA, THAL群共に成体の脳内でのドパミン濃度上昇が認められており、本モデルラットにおける薬剤による遺伝子発現への影響は、モノアミン神経系に関しては共通であるという特徴が今回の実験からも裏づけされたといえる。 これらの結果は、胎生早期にサリドマイド、またはバルプロ酸ナトリウムという催奇形因子に暴露されたラット胎児が共に自閉症類似のさまざまな症候を呈するに至る機転を解明する直接のカギとなる重要な発見であり、ヒト自閉症の病態解明、さらには診断・治療・予防への足がかりになると予測されるものである。
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