研究概要 |
蛍光を利用して,生物が生きた状態(in vivo)でその遺伝子発現や生理機能の発現を観察する技術は,生命科学におけるきわめて重要なツールとなっている。最近,各種レポータ遺伝子を組み込んだトランスジェニック生物を利用した遺伝子発現の分析法が広く普及してきている。これは光イメージング技術の有する非侵襲性,リアルタイム性といった特長を生かした技術である。しかしながら生体組織の多重光散乱により,生体組織内部を実用的分解能で画像計測することは非常に困難であった。われわれは,マウスなどの小型実験動物を対象として生体に侵襲を与えず,その内部における遺伝子発現や生理機能発現の動態計測を行うための新規技術の研究開発を目指して,超音波を援用した超音波タグ蛍光検出法の研究開発を行った。この手法は超音波の生体透過性と音響光学効果を利用し,集束超音波焦点での光学特性を空間選択的に計測するものである。平成17年度は,本原理に基づく散乱体内部の蛍光分布画像化の可能性について,コンピュータシミュレーションや液体光散乱媒質を用いた基礎検討により明らかにした。その結果に基づき平成18年度は生体模擬試料を用いた実験,および使用波長領域を生体に対する親和性の高い近赤外領域に変更し,実際の生体組織を用いた計測実験と計測装置のシステム化研究を行った。その結果,50mW CW近赤外光を励起光として,ブタ筋肉を生体試料に用い,深さ20mmの位置に設置した直径3mmの円柱型蛍光体を蛍光断層画像計測することに成功した。検出SN比の評価検討から,蛍光体波長,量子収率を選定することにより,深さ30mm程度まで約1mmの分解能で画像計測が可能であるとの見積りを得た。このことから,遺伝子発現に限らずヒト生体を対象にした蛍光ラベル法によるがんなどの異常細胞の検出や物質代謝計測など,幅広い応用が可能であるとの結論を得た。今後さらにこの研究成果を,臨床応用を目指した実用レベルに引き上げるため,専用の超音波・光照射プローブの開発など実用装置化研究を行い,広く医療応用を目的とした診断装置としての実用化研究として継続する予定である。
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