研究概要 |
脳卒中例の咀嚼を伴う嚥下に関して,嚥下反射開始時の食塊先端位置を同定し,同年代の健常人と比較検討した.嚥下反射開始時の食塊先端位置は,two phase food(TPF;固形物と液体)と液体において有意に脳卒中群の方が尾側であった.コンビーフでは差がなかった.脳卒中群に誤嚥を6例認め,2例がバリウム液,1例がコンビーフ,3例がTPFであった.健常群には誤嚥を認めなかった.食塊通過時間に関しては両群に差はなかった. 咀嚼嚥下における咽頭期嚥下運動を口腔との関連で観察すると,系列的な舌の食塊移送運動を伴った咽頭期嚥下運動(consecutive pharyngeal swallow:CPS)と移送を伴わない孤発的な咽頭期嚥下運動(isolated pharyngeal swallow:IPS)に分類できた。これらの出現頻度を脳卒中群と健常群で解析した.IPSの頻度は,健常群10%,脳卒中群15%であった。健常群のTPFは,60歳未満20%,それ以上35%であった。脳卒中群のTPFでは非誤嚥群20%,誤嚥群40%であった。脳卒中群のIPSの30%に誤嚥を認めたが,CPSでは10%であった.脳卒中群のIPSでは多くの誤嚥を認めた。脳卒中者でのIPSに伴う誤嚥は,咽頭での防御機構の問題を示唆するものと考えられた。 健常例のCPSとIPSとを対象に二次元動作解析を行い,嚥下反射時における舌骨運動を解析した.一連の嚥下運動のなかでIPSはすべて第1回目の嚥下であった.CPSは閉口時下顎停止とともに開始していたが,IPSは下顎の停止とは関連がなくかった.IPSは咀嚼時の下顎運動とは同期しない運動であった.舌骨の運動範囲も小さかったことは,気道防御のための嚥下であると想定されたことと,咽頭に進入した食塊量が少ないことが理由として考えられた. 関連して,嚥下障害例の治療帰結を後方視的に検討した.
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