研究概要 |
知覚・学習・運動システムである身体システムが,身体内部・外部環境の変化に柔軟に対応する典型的な方策として運動パターンの変化がある.特に,もっとも基本的な移動運動である歩行は,その移動速度を上げていくとある速度以上ではその運動形態を維持できなくなり無意識で走運動へと変化する.この移動運動パターン変化は,筋収縮エネルギーの最適な状態が自己組織的に選択されることから生じると考えられているが,実際の実験データに基づく検証は十分に行われていない.本研究は,歩行から走運動への移行に関与する運動とともに生じる身体内部情報を実験的に解明することであった.実験は,外踵上部に加速度計を装着した10名の被験者に,一速度を徐々に増加させるトレッドミル上で,歩行から走運動へ移行するまで衝撃力が異なる2つの条件(裸足とシューズ)で移動運動を行わせた.その結果,シューズ条件と裸足条件両者とも歩行から走運動への移行により内力が減少するが,衝撃力は依然として増加する傾向が見られた.よって,身体に加わる衝撃力の増加ではなく,下腿を前方にスイングする筋収縮力の増加がある臨界点に達することが,歩行から走運動への運動パターンの情報になっていると考えられた.またさらに,この状態で移動速度を増加させていくと,踵着地から前足部着地への着地動作の変化が生じた.そしてこの変化は,変化衝撃力が大きな裸足試技が,それが小さなシューズ試技より低い速度で生じ,さらにこの着地動作の変化によって衝撃力が減少した.以上のことから,人間の移動運動は大きく,歩行,踵着地走行,前足部着地走行の3つのパターンに分けられ,歩行から踵着地走行への変化は内力増加に対応するため,そして踵着地走行から前足部着地走行への変化は着地衝撃増加に対応するために生じていると考えられた.
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