研究概要 |
近年,明治・大正時代に建設された煉瓦造建築物の歴史的価値が認識され,文化財の指定を受けるものが増加してきた。しかし,同建築物を長期に亘って健全な状態で保存するに当たっては,構造体を構成する煉瓦や目地材料,さらにはそれらを組み合わせた組積体の物性に関する基礎的なデータの収集が不可欠である。本研究では,各種煉瓦造建築物に使用されている煉瓦を対象とした物性に関する調査・実験を実施し,その結果に基づいて長期保存に適した補修工法の選定を行うための評価手法を確立することを目的として以下の研究を行った。 まず,煉瓦造建築物の長期保存の可能性を評価するに際して把握しておくべき煉瓦の物性に関する基本的資料を得ることを目的に,国内各地において採取した煉瓦単体を対象とした材料実験を行い,製造期による煉瓦品質の変遷の一端ならびに耐久性の観点からの各種物性を明らかにした。その結果,製造年代が下るに伴う,煉瓦の圧縮強度およびヤング係数の増加,耐凍結融解性の向上,気孔率の減少,乾湿繰返しによる長期的なひずみの傾向を明らかにすることができた。また,超音波伝播速度によって推定したヤング係数と,これまでの研究によって得られた諸物性との関係について比較検討したところ,煉瓦単体の各種物性間に明確な関係を見出すことは困難であったが,長期保存においては,煉瓦単体の圧縮強度の高度化ならびに毛細管やムーブメントの低減化などが効果的であることが判った。 また,煉瓦造建築物の保存において一般的に行われている煉瓦壁の目地非充填部の注入補修に着目し,これによる力学性状改善効果を確認する目的で,煉瓦の材質および目地の調合比を変化させ,目地部に設けた間隙に各種補修材料を注入した煉瓦組積体の一軸圧縮試験および一面せん断試験を行った。その結果,組積体の材質による破壊過程の相違や,注入補修材料による高い強度改善効果を確認することができた。
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