研究概要 |
地球温暖化に代表される近年の気候変動が降雨-流出特性,降水量極値の生起頻度,および流出量・流出率の経年変化に与える影響について,国内一級河川の流域を対象に過去100年間の観測地に基づく比較検討を行った。中緯度湿潤地域に位置する河川流域では,正980年代以降における降水量の減少と蒸発散量増加の継続的な変化に伴い,河川の流出形態に時系列変動が出現している。降雨-流出過程は流域における土地利用変化の影響を大きく受ける現象ではあるが,加えて近年は,気候変動に対する応答が顕著になりつつある。年降水量と年平均気温の観測値に基づき,長期的かつ平均的水収支の手法により算出される流出量を基礎資料として,降雨一流出の経年変化の特徴を1水文年単位で明らかにした結果,降雨-流出過程の変化が流域の水循環システムに及ぼす影響の評価と共に,流域特性と時系列特性の差異を類型化することができた。異なる水文気象条件を有する河川流域対象とした1890年以降について,年流出率と洪水・渇水の経年変化の特徴を集積することにより,より普遍性の高い問題解決型の研究成果にアプローチすることができたと考える。次に,年降水量の既往最小値が記録された1994年に着目した木曽川の水質には,夏季を中心とする流量の減少と水温の上昇により,溶存酸素とBODに顕著な負の変化が認められ,将来における地球温暖化が河川水質に影響を与えることを示唆する結果が得られた。雲出川における1961年以降の主要洪水と最大流量の再現期間については,流域の土地利用の変化と気候変化に対応した流況特性の変化を抽出した。気候変動と流況変化との関係を定量的に明らかにし,水循環への負の影響を回避することは,水と人間との共生を将来的に持続させる上で欠かすことができない課題である。
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