研究概要 |
土壌や泥炭層の放射性炭素(^<14>C)年代は,土壌有機物の閉鎖系が曖昧なため,地質学・年代学的解釈が不明確であると考えられている.しかし,古環境変遷の編年・復元には,これらの堆積物の高精度年代決定が必要不可欠である.この研究では,テフラに挟在される土壌や泥炭層について,加速器質量分析(AMS)法により^<14>C年代を測定すると共に,炭素・窒素含有量や堆積物密度の垂直変化を明らかにした.これらの現地調査と室内分析から,土壌や泥炭層のもつ堆積および有機物の集積という2つの側面を区分する方法を確立し,土壌や泥炭層の^<14>C年代の地質学・年代学的解釈を高精度化する糸口を探った. この研究の対象は,火山だけでなく氷河の消長や海水準変動など多岐にわたっており,その汎用性は高い.火山の噴火史研究として,フィリピン共和国のマヨン火山,米国アラスカ州のアダック島のほか,箱根火山,雲仙火山,霧島火山などにおいて埋没土壌の^<14>C年代測定を実施した.また,海水準変動や沖積低地の研究として,クック諸島のラロトンガ島や熊本平野について年代測定を行った.このほかにも,活断層や考古遺跡の年代決定にも適用されている,単に^<14>C年代測定のみに止まらず,土壌や泥炭層の物理・化学的特性を連続的に分析することによって,年代測定の対象である堆積物中の有機物の挙動を由布火山などで掴むことができた.さらに,韓国の欝陵島などでは,これらの堆積物中に含まれる広域テフラ起源の火山ガラスを抽出・同定し,得られた年代値との層位関係を比較してその信頼性を検討した.これらの知見は,年代値の信頼性を議論するうえできわめて重要である.今後ともさらに,高精度・高正確度な年代決定を進めていく必要がある.
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