研究概要 |
ヨウ素は甲状腺ホルモンの構成元素として,人類や動物にとって必須な微量元素であり,ほとんどが海洋に存在している.海洋由来の主なヨウ素はヨードメタンであり(CH_3I),その生成源の特定は遅れている.本研究では新たな生成源として,海洋中に大きなバイオマスを有するバクテリアに着目し,CH_3I生成における海洋バクテリアの関与について検討した. 海洋バクテリアはAlteromonas macleodii(IAM 12920)を用いた.ヨウ化カリウムによりI^-濃度を調製したMarine Broth 2216培地を滅菌し,A.macleodiiを植菌した.その後、(1)I^-(1mM)添加,無添加の培地においてCH_3Iの生成量の経時変化を測定した.(2)I^-(0.1~1000μM)添加培地におけるCH_3I生成量の変化を測定した.(3)対数後期まで10,15,20,25,30℃の温度環境の下,前培養を行った.この培養液を本培養用培地に添加し振とう培養した.各培養温度におけるCH_3Iの生成量を経時的に測定した.測定はパージ&トラップGC-MSを用い,生菌数は吸光度(OD_<600>)からコロニー計数法により算出した. 結果:(1)A.macleodiiの増殖曲線から,I^-の添加はバクテリアの増殖速度には影響を与えなかった.CH_3Iの濃度を経時的に測定したところ,1mM I^-添加培地において時間依存的なCH_3Iの濃度増加が見られた.しかし,I^-無添加培地では,濃度増加が見られなかった.(2)CH_3I生成量を測定した結果,CH_3I濃度はI^-の濃度依存的な増加が見られた.また,添加したI^-濃度と生成したCH_3I濃度からCH_3Iの変換率を算出したところ,I^-が低濃度な程,変換率が高いことが確認された.(3)また各培養温度(15〜30℃)において,I^-存在下で明らかなCH_3I生成を確認した.最も生成量が高かった培養温度は25℃だった.表層海洋中のI^-濃度(約0.4μmol/L)におけるCH_3I生成量を見積もると約0.19nmol/Lとなった.本実験から観測されたCH_3I濃度を実際の海水表層中のバクテリア密度当たりで換算すると,海水中の2から20%の濃度が説明でき,このことから海洋バクテリアがCH_3I生成に関与していることが示唆された.
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