研究概要 |
(1)環境問題に対する社会の脆弱性やレジリアンスを歴史的な文脈で理論化するモデル構築を目指し,Hollingらの適応サイクル・モデルに歴史学や社会学における記憶研究の成果を取り入れて社会的記憶の概念を再構築した. (2)環境コミュニケーションとして,地球温暖化に関する一般雑誌記事のテキスト化を行い,コーパスを構築した.大宅壮一文庫所収より1988年から2005年まで413記事を抽出して,計27,105文のテキストを形態素解析にかけ,独自の辞書を作成して分節化と類義語による統合を行い,のべ275,609語からなる「地球温暖化」関連記事コーパスを得た.1988〜96年(第1期),1997〜2000年(第II期),2001〜05年(第III期)の三期に区分し,雑誌カテゴリーとともに分析属性とした. (3)TextMiningStudio(数理システム)を用いて,コーパスの内容分析を行った.まず,特徴語分析と対応分析によって,時期区分と雑誌カテゴリーと記事内容の関連性を調べた.次に,各属性内での共起語分析によって,「地球温暖化」が語られる文脈の変化を検討した.第1期では,食糧問題,冷戦構造,資源エネルギー問題などの先行問題群の「想起」が行われていたが,第II期以降では,食糧や冷戦への言及が平板化し,京都議定書に関わる国際政治問題と資源エネルギー問題としてコミュニケーションが再構成されてきていた.結果として,国家を主要なアクターとする言説が主流となった.このことは,「地球温暖化」問題をテクノクラート主導の外交や技術の問題と位置づけ,一般社会の関心を遠ざける結果になったと考えられた. (4)冷戦や核兵器の記憶に焦点を絞って共起語ネットワーク分析を行い,それらの「想起」が現在のようなテクノクラート主導の「地球温暖化」言説が構成される際に,どのような影響を及ぼしたのかについて考察を加えた.
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