研究概要 |
本研究の課題は,1997/98年にインド内陸の貧困州マディア・プラデシュ州の農村で実施した60か村360世帯の家計調査の対象となった同じ世帯を再調査し,10年間にわたるインドの経済発展が貧困地帯の農村に及ぼした影響を明らかにすることである。とりわけ,10年前に推進されていた住民参加型の森林管理制度(Joint Forest Management, JFM)の実施状況,森林資源や農家の経済厚生へのインパクトに焦点をあてる。 初年度の2005年度に2回の予備調査を実施し,再調査のための調査票を完成させた。2006年度は,雨期の明けた2007年1月に調査員に対する調査訓練を実施し,2月より本調査を開始した。しかし,調査員の辞職があり交代要員の採用に時間を要したため,同年の乾期中には調査を完了できなかった。雨期にはアクセスが困難な村もあるため調査活動は休止し,2007年10月から調査を再開した。こうした調査進行の遅れのため,2007年度末の段階で,現地調査は概の完了したものの,データ入力は進行中である。調査結果の詳細な分析は2008年度に持ち越しとなった。 前回に調査した1997年は,世界銀行の資金によりJFMが開始されたばかりであり,実施する州林業部にも受け入れる農民にも期待が大きかった。しかし,外部資金の供与が終了した現在では,JFMの制度そのものは存続しているが,州林業部による農民動員策の側面が強く,農民が得る便益は植林や枝打ちなどの作業に対して支払われる日当に限定されている。チーク等の有用樹の植林から収益が得られるのは数十年先であり,参加する農民に十分な動機が与えられていない。以上から,JFMは農民の所得を向上し植林を拡大したかも知れないが,森林保全については効果がなかった可能性がある。一方,井戸灌漑の普及は著しく進んでおり,一部で,過剰な汲み上げが問題となっている。
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