研究課題
基盤研究(C)
本研究はタバコ副流煙が曝露個体そのものに及ぼす影響とその子孫に与える影響を調べることを目的とした。実験動物には世代交代の早いショウジョウバエの野生株と尿酸欠損株を用いた。尿酸は生体に比較的高濃度で含まれ、活性酸素やラジカルのスカベンジャーとして作用すると考えられている。タバコの煙を充満させた25℃のインキュベーター内にショウジョウバエ3齢幼虫を置き、3あるいは6時間曝露後成虫まで飼育した。羽化率を算定し、曝露個体に対する致死作用を調べた。さらに、羽化した成虫を交配させた時の産卵数及びその卵の羽化率を計数することによって生殖に対する影響を調べた。遺伝子への酸化的傷害の有無を検討するため、曝露直後の幼虫からDNAを抽出し代表的な酸化傷害である8-hydroxydeoxyguanosine (8-OhdG)量を定量した。その結果6時間の曝露において、いずれの株でも生存率の低下が見られたが、尿酸欠損株では野生株の10%程度の減少に比べて有意に低い70%の減少が見られた。したがってタバコ副流煙は生体に対して致死的な作用を及ぼし、その一部は酸化的傷害によるものと考えられる。DNA中の8-OhdG量については、いずれの株でも顕著な変化は認められなかったので、細胞膜の脂質過酸化等、他の酸化傷害が致死的傷害となっている可能性がある。生殖に対する影響について、曝露後羽化したハエ同士の交配と通常に飼育したハエ同士の交配の間で、産卵数には大きな違いが見られなかったが、その卵の羽化率には曝露したハエ同士の交配で違いが見られた。7日間の産卵期間の総計で野生株では平均80%であったのに対し尿酸欠損株では57%であった。曝露の影響は雌においてより強いことを示唆する結果を得ている。副流煙への曝露は生殖能力に対して影響を及ぼしている可能性がある。
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