研究概要 |
本研究では,収束電子回折法を用いて,点欠陥の原子構造とその分布および周辺の歪みをナノスケールの空間分解能で定量的に解析する方法の開発を目指した. 点欠陥を含む試料として不純物ドープSiを用いた.この系では収束電子回折図形の低次反射のロッキングカーブで異常な強度の上昇が見出されている.この異常と点欠陥による歪みとの関係を明らかにするため,エネルギーフィルター透過電子顕微鏡を用いて,ドープ量を変えた試料で精密なロッキングカーブの強度分布を測定した. その際,種々の電子顕微鏡用薄片試料作製法について検討し,ロッキングカーブへの影響のない試料作製法を確立した.またSiイオン打ち込みした不純物のない試料について同様の実験を行い,イオン打ち込みにより誘起される格子間原子や微小Siクラスターなどのロッキングカーブ異常への寄与を見出した. また,統計的動力学回折理論,multislice法,Howie-Whelan法に基づく計算プログラムを開発し,種々の歪み分布モデルを用いて動力学回折理論に基づくロッキングカーブのシミュレーションを行い,実験データと比較を行った. その結果,不純物およびイオン打ち込みで発生する格子間Si原子・微小クラスターなどの点欠陥により生成する歪みに電子顕微鏡用薄膜試料の歪み緩和を入れた歪み分布モデルで,ロッキングカーブの異常な強度上昇を定量的に説明することに成功した.このことは,本方法が,点欠陥による歪み分布をナノスケールの空間分解能で定量解析できる新しい手法であることを示している. 本研究で開発した手法は,半導体デバイスの歪み分布解析に有効である.半導体の歪み分布解析には,高次反射に起因する細線からなる図形(HOLZ図形)が従来用いられてきたが,今回の方法により,これまで扱えなかった界面近傍の比較的歪みの大きい領域の解析が可能となった.
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