研究概要 |
本研究は,2年間にわたりブラジル,アルゼンチン,ウルグアイ,チリ,ボリビアからなる南米部地域を対象に,「市場統合」の推進と補完的な関係にあるインフラ部門や通関システムなどの"物的統合"がどのような形で進展しているかとともに,その促進に影響を及ぼすと考えられる「地域公共財」的発想の観点を検証することを意図して行ったものである。「南米南部共同市場」(メルコスール)や南米地域インフラ統合計画」(IIRSA)がうたうエネルギー網や輸送網,通関制度などからなる,かなり幅広い分野の現地調査を行った。その成果を踏まえながら,本報告書では,調査期間中にボリビア新政府が天然ガスの「国有化宣言」を行う等,当初予期されなかった事態が発生したこともあり,事例研究として天然ガスを集中的に取り上げ,経済自由化、市場開放過程でのインフラ(ガスパイプライン網)の整備状況,ネオリベラリズムの反動ともいう形で発生した「エネルギー(天然ガス)危機」,その後の各国の対処法,および南米南部地域としての解決策の模索を取り上げた。その中で,天然ガスおよび同パイプラインは「非排除性」および「非競合性」からみて純然たる公共財(pure public goods)とはいえないものの,市場の原理には完全に任せずに,公益性を有した半、公共財と認識し,地域構成国が納得し遵守しえる規範づくりが早急に必要とされる点,およびそうした発想を再確認することによって初めて,安定した供給体制の確立に道が開かれる点を指摘した。世界的に天然資源の需給逼迫が言われるなかで,地域の方向性を検討する上で不可欠な視点の一端を示した研究といえる。
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