研究概要 |
マクタガート以来の分析哲学における時間論を手がかりにしつつも,そこでの暗黙の前提である「時間の線イメージ」に依拠することなく,時間様相(過去・現在,未来)を解明することを目指した。 「出来事」概念の分析を通して,「過去の確定性」と「現在の幅」に関して次の成果を得た。即ち,「出来事個体は過去に関してしか存在しない」,「出来事個体が出現するたびに過去が出現する」,「出来事個体は変化・消滅・復活しない。このことが過去の確定性の源泉である」,「過去の出現に伴い,過去でないものとしての現在が,その都度,異なる幅をもって出現する」,「現在過去未来の区別以前の,我々の経験の場としての時間的パースペクティヴにおいて,物個体は同一性を保ちつつ絶え間なく変化している。この切れ目なく生じては消える変化を,完了したひとまとまりのものとすることが出来事個体を出現させることである。それゆえ,出来事個体の存在はそこに含まれる物個体の存在と我々による出来事個体への指示に依存している」などの結論を得た。 また,その際,出来事の同一性の基準をめぐるクワインやデイヴィドソンらの議論の検討や,ウィリアム・ジェイムズの「見かけの現在」に関する検討も合わせて行なった。 さらに,「未来」概念の解明を目指して決定論の検討に着手した。即ち,論理的決定論の現代的形態であるリチャード・テイラーの運命論を検討し,その論証が失敗していることを示した。次に,因果的決定論を検討し,「自然法則から決定論は帰結しない」という結論を得た。また,未来概念の含み持つ「可能性」概念を解明するための準備として,フィクションと反実仮想とを比較し,「現実性の方が可能性よりも基礎的概念である」という見通しを得た。 本研究は現代分析哲学における「分析的形而上学」というジャンルに属する研究である。
|