研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、レンブラントやその同時代の画家たちの手になるさまざまな女性表現-娘から老女にいたるまで-をとりあげその特徴を明らかにすることであった。女性たちが統べる領域は家庭という小さな世界であったが、それはけっしてとるに足りない矮小な世界などではなかった。オランダの風俗画にあって女性たちは絵の中心的役割をはたしていた。この点において十七世紀オランダ風俗画は水際だっている。オランダ絵画は宗教や神話や寓意を説明する役割から解放され、外界を写し取るのではなく、人間のありさまを詩的な想像力によって目に見える形に変容させたものだと見抜いたのは、さすがにヘーゲルの炯眼である。リアリズムとは、共同体としての精神が産みだそうとする世界を、ありうべきこととしてその共同体を構成する人々に受け入れさせる手段であり、絵はその手段を用いてまだ存在していない、いわば仮想を現実として描きだし、逆に現実が仮想としての絵をシミュレート(模倣)することになるのである。オランダ人は、スペインとの独立戦争に勝ち抜くことで存在するようになった祖国を、女性になぞらえたイメージをつぎつぎと創りだしていくことによって意識化し、現実のものとしていったのである。オランダははじめからオランダとしてあったわけではなく、対立する「他者」(スペイン=男性性)との衝突によって、形づくられていった。時代の鑑でもあるオランダの風俗画の誕生は、祖国オランダの成立過程と深くかかわっていたのである。もちろん十七世紀オランダとは時代背景が異なるものの、現代では女性の活躍する場は家庭から社会へと飛躍的に拡がっている。女性の力は社会に欠くべからざるものになっているのである。そうした現実をまのあたりにしている私たちには、十七世紀オランダ風俗画はけして遠い時代の遠い国の絵画ではない。そこに描きだされた女性たちは、私たちが自分たちの時代を考えるための鏡のような働きをしているのである。
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形と空間のなかの私 1
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『芸術の始まる時、尽きる時』 1
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東北大学歴史資源アーカイヴの構築と社会的メディア化(報告書)
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