研究概要 |
エミリア・パルド=バサン(1851-1921)の初期小説において,書き出しで主人公を読み手にとって「未知」の存在と想定して導入し,紹介の儀式を経て名指しする手法が規範化した後,「既知」と想定した呼び名へと変容,次にいきなり名指しする手法へと転回し,主人公「わたし」の語りに帰着すること。書き出しの描写は,作中人物を含む空間の一般的な描写から,人物を含まない純粋な風景描写,そして冒頭一行目に導入された主人公の行為や感覚に焦点を当てたものへと変容し,「わたし」の気まぐれな語りにいたること。これら2つの現象が密接な関係にあり,当時の読者の美的感性とそれを基盤とする物語情報の制禦の仕方とリンクしていることを明らかにした。
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