本研究は、17世紀に英国で成立したCountry House Poemsが、詩の領域を離れて小説という異なるジャンルに継承され、さまざまな変容を遂げつつ新たなサブ・ジャンルを形成していく過を、カントリー・ハウスを小説の舞台とする18世紀から現代に至る代表的な英国小説と、それを取り巻く歴史的、文化的事象の解読を通して明らかにしようとするものである。研究の初年度には主にCountry House Poemsと18世紀の小説に焦点を当て、二年目には、19世紀小説を、そして最終年度には、20世紀作家を中心に、カントリー・ハウスを描く小説とその研究書の文献リストを作成し、購入、解読、整理を行ないながら、カントリー・ハウスが本来持つはずの生活様式や価値観、さらに言えば、屋敷の存在そのものが、時代の流れとともにどのような変化を伴いながら、イギリス小説の中に描かれ、小説の様々なサブ・ジャンルを形作って行ったかを考えた。専門とする19世紀小説の学会に積極的に参加、研究の成果を発表するとともに、18世紀小説の専門家や19世紀小説の専門家を招いて知識の提供を受け、その研究者とのディスカッションを通じて、自らのパースペクティヴを修正、あるいは深化させるように務めた。当初の計画にも示した通り、この研究を真に充実した形で結実、完成させるためには、さらに数年の調査と研究が必要だが、この三年間で、18世紀から20世紀に至るイギリス小説における「邸宅」の表象とその意義の変遷に関して、自分なりの展望を得ることができたと考えている。
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