研究概要 |
本研究は,1920年代〜30年代の両大戦間期にフランスで生活した日本人の群像の分析を通じて,日本の近代化において彼らが及ぼした影響を解明することを目指すものであり,より具体的には,画家藤田嗣治,岡本太郎,哲学者九鬼周造,パリ国際大学都市「日本館」の生みの親である薩摩治郎八をとりあげ,画家=美学者=メセーヌという三角形の布置のもとに,彼らのフランスでの自己成型と自己発見を検討した.まず,九鬼周造にかんしては,九鬼周造全集や先行研究を踏まえつつ,九鬼のフランス滞在時のコンテクストを再構成し,さらには,甲南大学に所蔵されている,九鬼がフランス語学習にもちいたノートなどの資料を分析することによって,サルトル,アレクサンドル・コイレといったフランスの哲学者たちと九鬼との交流の研究への道筋をつけた.また,岡本について言えば,岡本自身の証言と1930年代パリの岡本周辺の芸術・思想の潮流とをつき合わせ,美術における抽象と具象,あるいはヨーロッパ的普遍と諸民族の個別性といった二項的な構図が岡本のなかにはぐくまれていった流れを跡づける作業をおこなうことで,後年の「対極主義」や「縄文」の発見との連続性をさらに検討するための準備がなされた.薩摩については,フランス外務省外交資料庫,外務省外交史料館所蔵資料,さらには,パリ国際大学都市に所蔵されている大量の関係資料の調査をおこない,また,薩摩の自筆書簡についてはそのトランスクリプションと解読をすすめながら,藤田嗣治,ポール・クローデルといった人々との交友関係を含む薩摩の活動の全容の解明への足がかりを構築した.
|