研究概要 |
本研究は,近代関西言語の条件表現の使用実態,推移の具体的なさまを,同時期に成った落語録音資料を用いて明らかにすることを目的とした。具体的な研究活動及び成果は次のとおりである。 1.近代関西語研究に利用できる言語資料の整備の一環として,主として大正期から昭和初期に録音された落語資料の文字化を54演目分について行った。そのうち16演目分を研究成果報告書に掲載した。 2.落語について,近代大阪語の言語資料としての特性を把握するために,条件表現の用法,及び助詞ガ・ハ(及びそれに対応する無助詞)の用法を指標として,録音資料と速記本との比較という観点から検討した。速記本には,仮定表現の用法において一段階前の使用状況を示す面があり,助詞の無標化の頻度が低いなど,書記言語としての特徴が見出せる。その一方で音声資料には必ずしも明示的に現れてこない言語使用が,速記本の方にわかりやすい形で認められる一面もあり,録音・速記本両方を効果的に用いた研究が重要であることが判明した。 3.関西語における条件表現は,大きくはタラを基軸とする表現へという流れがある。ただタラの用法領域との距離関係によって歴史上の遅速があり,またその一方で,タラ条件句固有の特性に馴染まない用法領域では,根強く別の表現(ト,当為表現及び当為表現に準ずる表現領域の仮定形+バ)を維持している。標準語とは異質ながら,大阪語・上方語としての単純化・分析化の具現例であり,地域言語の推移を理解する上で一つの型を示すものとして注意すべきである。
|