研究概要 |
本研究の目的は、英語の変種のひとつであるイギリス英語の現在の姿を英語学・社会言語学あるいはコーパス言語学の視座から考察することにより、イギリス英語の現在の在り様の特徴を明らかにすることである。とくに英国のイングランド地方で最近、イギリス標準英語(Received Pronunciation)に取って替わるべく浸透してきた河口域英語(Estuary English、以下EEと略す)に焦点を当て、イギリス英語の実態を明らかにすることであった。EEは近い将来RPに完全に取って替わる可能性がある。完全に取って替わらないまでも、標準語としてのRPの位置に大きな影響を与えていることは確かであり、このことは既に起こり始めている。では、どうしてEEがこのように広がるのであろうか。3年間に渡る本研究では、英国に出かけての調査、あるいは文献による精査の結果、Kent, Surrey, Sussex, Hampshire, EssexなどLondonを取り囲む、いわゆるHome Countiesに住む若者達が、地域の訛りではなく、あえてこのEEを話す傾向にあるのは、EEには彼らの住む町にはない都会(London)的な響きがあり、これを話すことによって、両者の間には空間的な隔たりはあるものの、自分達が同世代の都会に住む若者と共通の文化を分かち合っていること('street cred')を示したいという意識の表れではないかという結論に達した。つまり、現在の英国における英語のありのままの姿を英国の社会構造の変化との関係で明らかにした。また、EEはRPとCockneyの間に位置しそれらの変種を結ぶ媒介のような役割を果たしていることも分かった。これらの成果は国の内外で口頭発表あるいは公刊し、一定の評価を得た。今回の研究の結果は、近い時期にまとめて単行本として刊行予定である。
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