研究概要 |
本研究は,外国語によるリスニングに影響を与える情意的変数として従来認められていた不安に代わる変数として,「リスニングストレス」という,これまでの不安も含めた,より包括的な構成概念を仮定し,その構成概念としての妥当性を検証し,その生起のメカニズムを解明しようとしたものである。 本研究では,まず,従来認められていた外国語学習不安及びリスニング不安に関する先行研究を精査し,第二言語習得/外国語学習における不安の説明的妥当性の不備を明らかにした上で,Spielberger(1972)が定式化した不安に関する知見と,Lazarus and Folkman(1984)によるストレス理論に基づき,リスニングストレスの構成概念の理論的定義を策定した。その上で,日本人大学生を被験者とした英語のリスニングにおけるストレス生起実験の結果と,英語圏(アメリカ)で実施された短期語学研修に参加した日本人大学生を調査協力者として行ったストレスに関する内省報告及び質問紙調査の結果をそれぞれ質的に分析し,リスニングストレスの構成概念モデルを構築した。さらに,より強いストレスを長期にわたって経験していると推測されるアメリカの大学に在籍する日本人留学生を対象に行ったリスニングストレスに関する内省報告と質問紙調査の結果から,リスニングストレスの生起のメカニズムにおいて中核的な役割を果たすと考えられる認知的評価プロセスについて,その要因を洗い出し,要因間の相互関係を明らかにした上で,リスニングストレスの認知的評価プロセスのモデルを構築した。 これらの研究結果から,リスニングストレスの心理的実在性は十分に認められ,その構成概念としての妥当性は検証されたと言える。また,リスニングストレスの生起のメカニズムについても,本研究で構築した認知的評価プロセスモデルはその解明に大きく貢献し得るものであると言うことができる。
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