研究概要 |
本研究においては、中世イングランド北部周縁社会とネイションの問題を考える基礎作業として、ダラム司教座聖堂における写本・文書作成活動に着目した。とくに、歴史叙述者また多様な写本・文書の作成者であったシメオン・オヴ・ダラムの活動を跡づけることを、ダラム司教座聖堂図書室、スコットランド国立図書館、オックスフォード大学ボドレー図書館、大英図書館、グラースゴウ大学に所蔵された各種写本、および本補助金で購入できたDurham Cathedral Manuscripts, R.A.B.Mynors, Oxford,1939の検討を通じて試みた。その際マイケル・ガリックによるシメオンの筆跡研究が大きな導きの糸となり、当時の書記たちの、学芸や教会管理の幅広い領域に係わる活動ぶりが確認されると同時に、ガリックの筆跡同定にはいっそう検討の余地があることも明らかになった。 また国際研究交流は本研究の大きな成果の一つであった。2005年には連合王国のリーズ大学におけるInternational Medieval Congressで報告'Nation Addresses in English Episcopal Acta'、2006年には同ロンドン大学で開催された国際学会The 5^<th> Anglo-Japanese Conference of Historiansで報告'Migration and Assimilation seen from the ‘nation address' in post-1066'をおこなったが、本研究でとりくんでいるダラムの事例は、これらの報告のひとつの核を構成した。これらの報告は、欧米でもこれまでおこなわれていなかった視角で11・12世紀のブリテン島史に新知見をもたらすものとして、高い評価を受けた。
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