研究概要 |
近世ポーランド・リトアニア共和国は「貴族の共和国」とも呼ばれ、貴族身分(シュラフタ)が国王を選挙で選び、身分制議会を中心に国政を主導したことで知られる。この特異な国制は、個々の成員の自由な意思を尊重しつつ全体の合意を重視する独特な政治文化(シュラフタ民主主義)を生み出す一方、17世紀後半以降は「リベルム・ヴェト」(自由拒否権)による議会の機能麻痺を引き起こした。20世紀前半のW・コノプチンスキの古典的研究をはじめとして、従来の研究者の多くは、「リベルム・ヴェト」を近世ポーランド国家の衰退の原因の1つと考えてきたが、近年では、シュラフタ社会を一種の「市民社会」としてとらえる新しい政治文化史研究が盛んとなり、拒否権を少数者の権利を保障する究極の制度として再評価する見解もみられる。また、17世紀にみられる全国議会から地方議会への政治的意思決定の場の移動も、よりポジティヴに評価する傾向がみられる。 本研究では、ポーランドにおける文献の調査と専門家とのインタヴューをふまえて、議会史と政治文化史にかんする近年の研究動向を網羅的に把握し、新たな視点が打ち出される経緯と政治的・文化的背景、近年の主たる研究文献とその主要な論点を整理したうえで、残された問題点を探った。以上の研究成果の一部は、北海道大学スラヴ研究センターで開催された国際シンポジウム(2005年12月)で発表し、のちに論文を"The Polish-Lithuanian Commonwealth as a pohtical space : its unity and complexity", in : T.Hayashi and H.Fukuda (eds.), Regions in Central and Eastern Europe : Past and Present, Sapporo, pp. 137-153. 2007として公刊した。また、学術雑誌に研究成果の一部を論文として発表した(とりわけ以下の2点)。 ・「シュラフタ文化論序説-近世ポーランド貴族の世界」『歴史と地理』601号(2007年9月) ・「「貴族の共和国」像の変容-近世ポーランド・リトアニア共和国をめぐる最近の研究動向から」『東欧史研究』30号(2008年3月) 以上の研究成果を要約し、また最近の研究動向をふまえて15世紀末から18世紀にいたる「貴族の共和国」の議会の基礎的なデータを整理した一覧表を作成し、研究成果報告書にまとめた。
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