本研究の目的は、フランス絶対王政の地方行政の末端を担った地方長官補佐(subdelegues des intendants)について検討することによって、近世フランスの権力構造の特質を明らかにすることにあった。フランス西部地方のアンジェの地方長官補佐をケース・スタディとしてとり上げ、従来制度的研究に傾いていたため検討がなされてこなかった地方長官補佐の実際の機能について、主として考察した。 国王政府から広範な権限を委ねられながらも任地の事情に不案内であり、きわめて小さな下部組織しか備えていなかった地方長官は、任地の行政において在地の有力者である地方長官補佐の活動に依存するところが大きかった。その地方長官補佐の活動を網羅的に検討してみると、地方長官補佐は、王権の要求の実現のために動くと同時に、地方の必要を王権に伝えていることが明らかになった。すなわち、王権と地方的諸権力の間に立って、両者の利害を媒介する機能を担っていたとみられる。 権力というものを近代国家的に、中央政府から発して地方に伝わっていくと考えるならば、地方長官補佐が在地の名望家であることは、マイナス要因として評価される。しかし、王権が地方にかなりの程度浸透して来ているとはいえ、まだ公権力が一元化されていない状況の中では、そして、中世的な代表制度も近代的な代表制度も欠如しているこの時代にあっては、地方長官補佐が名望家として二つの顔を持っていることは、王権の地方行政が動いていくうえで、逆に有効性をもっていたと考えられるのではないだろうか。
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