研究課題
基盤研究(C)
近年、「場所マーケティング」の概念を取り入れ、新しい地域のイメージを創り出し、地域経済の活性化を図る動きが盛んになっている。本研究では固有の場所性とは関係のない(もしくは薄い)要素を導入し「場所マーケティング」に成功している事例に注目し、場所マーケティングの主体たる自治体や地域住民が如何なるプロセスで新しい場所性を創り出し、それを「商品」としてマーケティングしているのか、またその過程で人為的に形成された場所性が地域住民にとって「自分のもの」として認識されていくのか否かを明らかにした。韓国全羅南道咸平郡の「チョウまつり」においては、固有の場所性とは関係のない要素、すなわち「チョウ」に代表される環境アイコンを導入し、都市住民に生態的なサービスを提供することで、自らの地域を「商品」としてマーケティングする戦略を取ってきた。咸平郡の事例は初期における都市部からの反響が、人為的に形成された新たな場所性を地域住民にも「自分のもの」として認識させるきっかけになったと言える。一方、兵庫県豊岡市のコウノトリの野生復帰事業の事例では、害鳥としての認識と新たなまちのシンボルとしての認識が共存しながらも、コウノトリの野生復帰事業に対する全国からの反響、すなわち「外部からの目」によりそれらの矛盾が繋ぎ合わさっている。韓国咸平郡の事例と兵庫県豊岡市の事例に共通することは、(1)環境アイコンとして外部や地元住民ともに分かりやすい生物を選んでいること、(2)その環境アイコン自体に美しさと希少性が含まれていること、(3)小規模な自治体であるゆえ、単一の環境アイコンに集中する場所マーケティングを行ったこと、(4)農業と環境との矛盾を無理に解決しようとせず、その矛盾を抱え込む戦略を取ったこと、(5)「外部からの目」に投影された己の姿や評価が人為的に形成された場所性を「自分のもの」として認識させる過程で少なからず役割をしたこと、などである。
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