研究概要 |
日本の中山間地域は長く過疎化に悩まされてきたが,高度経済成長期を経て、公共事業による建設業や分工場型の製造業を中心とした、外部依存性の高い周辺型経済を形成した。しかし,今日,急速に進むグローバル化,構造改革の波は,そうした経済にも根本的な転換を迫っている。このような認識に立って、本研究では現代日本の知識社会への移行を前提として、中山間地域経済の今後の再構築の方向を生活文化産業の観点から理論実証両面から展望しようとした。主な研究成果は下記の通りである。 1)従来の研究では、地域の存続に関わる中山間地域経済の再構築について知識社会を見据えた形での展望はなされていない。その際重要なのは、新産業のあり方を,農業,林業,工業といった従来の産業区分を乗り越えて,産業融合的な観点から模索することである。「生活文化産業」はこうした要請に応えるものとして提起したい。生活文化産業とは,都市生活者のニーズに対応した質の高い生活文化領域の財・サービス供給を、地域に根ざした形で産業融合的に行うものである。 2)東広島市の福富町竹仁地区を対象に研究を進めた。この地区のツーリズムは,初期には地区外からの転入者による知識創造に依存していたが,徐々に地元住民も加わるようになった。多くの地元住民の参入を可能としたのは行政による「福富物産しゃくなげ館」の開設であり,この組織を核とした集団学習や事業へのサポートによるところが大きい。来訪者の大半は都市部の中高年層である。そこで追求されるものは,自然や田園景観,食事,農産物、健康と癒し,工芸,そして,それらによる消費のストーリー性である。このような特徴は,ポスト生産主義における「農村を消費するまなざし」に対応するものと言えよう。現代の農村ツーリズムが「農村へのまなざし」に依拠しているとするならば,供給サイドにはこの「まなざし」に応えうる学習と知識創造が求められる。
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