研究概要 |
平成17年度には,台湾の蘭嶼ヤミ(タオ)族と本島東岸のパイワン族の根栽農耕文化について,またフィリピンではルソン島北部のイフガオ族のイモ栽培の状況について実地調査を行い,それらの成果について研究発表した。平成18年度にはフィリピンのバタン諸島でのイモ栽培に係る資料収集と実地調査を実施した。この両度の調査でフィリピンにおける根栽農耕文化の位置づけをかなり明確にすることができた。いずれの調査研究も,研究協力者との連携・協力のもとに実施された。なお,琉球弧の島々におけるイモ栽培についても資料収集を行った。これらの研究成果は国際シンポジウムで発表した。平成19年度は,若干の補遺調査,研究成果の総括とまとめを行った。 その結果,台湾蘭嶼のヤミ族は根栽農耕の正統な後継者とするに十分な根栽農耕体系を維持するとともにその文化的特徴を具えること,それに対して本島東岸地域では伝統的イモ栽培を部分的にとどめるに過ぎないことがわかった。フィリピン最北部のバタン諸島ではタロイモの水田耕作はみられなくなっているものの,ヤムイモを始めとする根栽農耕体系の一部が継承されており,ルソン島北部の一部では今もタロイモの灌概耕作が行われている。 タロイモ栽培様式に的を絞ってフィリピン・台湾,南西諸島(琉球弧の島々),オセアニアについて比較検討した結果,基本的には台湾とフィリピンにみられる栽培様式は南西諸島やオセアニアのものと共通していること,しかし細部ではかなり偏差があること,類型的にはオセアニア型と南西諸島型の中間に位置づけられることを論じた。 このように,今日の黒潮ルートにおける根栽農耕には濃淡差,あるいは連続と非連続の落差が認められるが,この地域の文化伝播論を大きく捉える上では,その差異を強調するよりも,その間隙を埋め,繋ぐことが大切であると考える。そのための基本的な作業を行った本研究はその前進に寄与することができたものと確信している。
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