本研究の目的は(1)市民の一般的な刑罰観(応報刑か、抑止刑か、あるいはその他)を明らかにする、(2)刑罰観との関連において、責任判断過程の認知的分析を行う、(3)一般市民の責任判断に大きな影響を与える諸要因を特定する、の3点であった。本年度は以上3点を明らかにする研究の前段階として、主に関連文献の検討により、(1)に関連して、以下のような成果を得た。 まず、実験において用いる独立変数としての刑罰目的として、以下の7種を特定した。(1)応報(2)不能化(3)再教育(4)積極的一般予防(5)消極的一般予防(6)特別予防(7)補償である。特に(4)積極的一般予防は、刑法学的には重要な概念であるが、これまで把握していた心理学文献においては一般予防において消極的一般予防と積極的一般予防とを区別して提示する文献は皆無であったので、刑罰目的に関する心理学的な調査においても現実に用いられうる変数であることを近年の文献調査を行うことにより初めて知ることができ、文例も収集できた点で収穫であった。ただ、7種の刑罰目的に一対比較法を用いると、被験者に対して提示される比較対が21種にも上り、このような多量の比較対を提示して信頼性のある回答が得られるのかどうかについては、今後、予備実験等によりさらに検討を重ねる必要がある。 また、本研究は、当初、刑罰目的を提示する仕方として、一般的に提示するという方法のみを計画していたが、文献調査の結果、具体的な犯罪事例を提示して、犯罪類型によって刑罰目的の重要性判断が異なってくる可能性を考慮するべきことに気がついた。そこで、この点をカバーできるように実験計画を変更する予定である。
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