研究概要 |
本研究期間中,JR福知山線の列車脱線事故や,福島大野病院事件等,社会の注日を集める出来事が起き,本研究の課題である事故調査と刑事司法制度に関する社会的関心も急速に高まった。そのため,本研究では,当初予定していた事故調査と刑事司法制度に関する基礎的な問題の洗い出しと,それに対応した外国法制の調査と分析に加え,とりわけ具体的な議論の高まりが見られた,医療事故に特化した研究を行った。 前者については,(1)過失犯の処罰範囲,(2)事故調査機関と捜査機関との関係,(3)刑事制裁以外の制裁制度の有無とその運用の状況を軸に,調査・検討を行い,その結果を,いくつかのシンポジウムや研究会で報告するとともに,雑誌論文として公表した。その要旨は,既存の制度の下での刑事責任の追及と事故原因の究明は,一定の場合には対立する場合があることは確かであるが,刑事責任をおよそ問わないという方法は妥当ではなく,(1)業務上過失致死傷罪への法人処罰の導入,(2)捜査機関と事故調査機関との協力関係の緊密化,(3)事故調査によって得られた資料の刑事手続での利用制限等の,事故原因の解明の妨げとなっている要因を解消する方策を考えるべきということである。 後者については,日本内科学会を母体とする「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の運用状況を調査するとともに,研究の一環として,日本医師会が主催した「医療事故責任問題検討委員会」に委員として出席し,事故調査のあり方を含む,医療事故に対する刑事責任の追及にあり方に関する検討を行った。同委員会による報告書は,既に公表されている。また,東京大学大学院医学系研究科の医療安全管理学講座主催による,モデル事業の関係者を対象としたトレーニングセミナーにおいて,「事故調査と刑事手続」と題する講演を行った。
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