研究概要 |
平成17年度,18年度の研究を終了し,以下の成果をえた。 1.現時点における福祉契約の契約法上の問題点を抽出し,これまで必ずしも共通の問題意識となってこなかった,契約法学の側から取り組むべき課題を明瞭にした。 2.社会福祉制度の中において働く契約としての福祉契約の特質を分析し,(1)社会福祉の理念の契約に対する反映,(2)公共性・倫理性の契約に対する反映,(3)継続的契約性,(4)福祉サービスの質の評価の困難さ(市場原理に対する阻害要因),(5)消費者契約の側面とそれをこえる問題性について,現状を明らかにした。 3.福祉契約の締結のあり方につき,現在用いられている各種「モデル契約」の実態分析と地域福祉権利擁護事業の検討を通して,契約法上の法律構成の可能性を整理した。 4.福祉契約に基づいて創出される法律関係の確定のあり方につき,「モデル契約書」などを素材に分析し,特に求められるサービスの質の確定につき,提言を行った。 5.福祉契約の不完全履行をめぐり,特になす債務としての特質と,あるべきサービスの質の評価方法について,看護学において用いられてきた三層の評価枠組みを履行の不完全性の判断に応用することを提言した。これは,従来の不完全履行論には見られない新たな主張であり(「福祉契約と契約責任」として発表。「11.研究発表」の項参照),近時,支持を得つつある。 6.福祉契約に基づくサービスの提供過程において契約責任のあり方が問題となる場合には,今日では,要件事実論上の論点についても解明が必要となる。福祉サービスの提供契約と要件事実論を関連つけた研究は,これまでまったく試みられてこなかったため,本研究はその嚆矢となるものである。特に,福祉サービスの提供債務の不完全履行を追及する場合における,規範的要件としての履行不完全性を基礎付ける評価根拠事実を解明した(「役務提供型契約における要件事実」として発表。「11.研究発表」の項参照)。 6なお,当初の計画では,ドイツの法状況に関する調査を日本法の問題解決に活かすことを予定していたが,分析を終えることができず,この点は今後の課題とせざるをえない。
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