研究概要 |
リプロダクティブ・ライツとは、端的には避妊具・避妊薬と、安全で合法的な人工妊娠中絶とへのアクセス保障である。 D.マクブライドは米国におけるプロチョイス(合法中絶支持派:主に民主党)とプロライフ(中絶禁止派:主に共和党)との抗争を、草の根から大統領の政策に至るまで、5つの争点に関して特定した。D.ステンヴォルは、共産政権時代はソ連や他の東欧諸国と同様、無料で合法の中絶が提供されていたポーランドで、政変に伴うカソリック勢力の膨張により、合法中絶がほぼ不可能になったことを指摘した。W.ビュンは、韓国における非合法の女子胎児の選択的中絶により、出生児の性比に偏りが出ていることを示した。これらの報告は、2006年7月「世界政治学会福岡大会」のパネルにおいて英語でなされ、さらに、北九州と東京での通訳付き国際シンポジウムでも公開された。研究代表者は、これらの会合を統括し、報告を邦訳し、北九州では日本におけるリプロダクティブ・ライツに関して基調報告を行った。東京ではE.コツブスが日本における避妊や簡単な中絶や女性のガン予防手段へのアクセス手段が制約されていることを指摘した。 研究代表者は、女性の中の差異とマイノリティ女性の困難とに注目して「多様な女性とリプロダクティブ・ライツ」を執筆し、日本では人工妊娠中絶に「配偶者の同意」が求められており、「女性の請求のみに基づく中絶」という今日のリプロダクティブ・ライツの国際相場に遅れを取っていることを示した。 主として昭和15年以前に生まれた日本人女性に対し人工妊娠中絶経験に関するアンケートを行い、268通の回答を得て年代別の分析を加え、優生保護法にはずれる中絶を受けたと認識している女性は、中絶経験者の多くても3割にすぎないことを発見した。 合衆国・オーストリア・ベルギー・カナダ・イタリア・オランダの中絶政策に関し、Abortion Politics, Women's Movements, and the Democratic State, Oxford Univ.press,2001における論考の邦訳を行った。
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