研究概要 |
本研究プロジェクトは,自然災害リスクと不動産価格形成について3つの研究成果を生み出している。 第1に,研究代表者と研究分担者が継続的に行ってきた東京都下の地震リスクと地価,あるいは家賃の関係について実証的な分析を行ってきたものが,当該分野で重要な英文査読論文として採択された。Nakagawa, Saito, and Yamaga(2007,forthcoming in Japanese Economic Review)では,地震リスクの分だけ地価が割り引かれ,その程度は標準的な期待効用仮説と整合的であることを実証的に明らかにしている。また,Nakagawa et al.,(2007,Regional Science and Urban Economics)では,地震リスクと家賃の関係に関する実証研究に基づいて,地震に脆弱な地域の賃貸物件の耐震補強は物件所有者の費用便益の面からも純収益が生じることを示している。 第2に,水害リスクと地価形成の関係を実証的に分析するためのデータベースを構築したことである。具体的には,愛知県が公表している水害ハザードマップと県内で時系列的に記録されている公示地価、国勢調査の町丁目別データを用いて,自然災害リスクと地価形成の関係を検証するためのデータベースを作り上げている。(1)平成12年に東海豪雨水害によって,名古屋市の家計や企業が深刻な水害リスクを経験した,(2)東海豪雨水害を契機として,名古屋市は平成15年に水害ハザードマップを初めて公表し,市民に水害リスクの周知徹底を図った,(3)同時に,名古屋市は,新たな緊急雨水整備計画を策定し,東海豪雨水害を反映して地域ごとに異なったレベルの防災対策を実施することにコミットした,(4)水害リスクについては,民間保険市場が不十分であり,公的な保険制度も確立していない,といった事情を鑑みて当該データベースを今後の実証分析に活用していきたい。 第3に,研究代表者は,より一般的向けの媒体やジャーナリスティックな媒体を通じて第1や第2の実証分析の知見に基づいた政策提言を行ってきた。
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