研究概要 |
この研究課題は,わが国の財政規律の喪失の背景に,政府の行動と公共目的が乖離している問題があるとの認識にもとづき,政府の意思決定メカニズムの解明を通して,これを改革する手段と財政健全化へのあるべき姿を描くことを目的とした。具体的な研究課題として,先進諸国での安定化政策における財政政策の位置づけについての比較研究,財政健全化過程における国と地方の収支改善目標のあり方と地方財政計画・交付税制度の改革,公的金融機関の組織形態のあり方,消費税への軽減税率適用の効率と公平に与える影響,等の研究を平成17〜18年度にかけておこなった。 平成19年度は,高齢化の進展で増大する医療・介護費用の財源調達の問題を,財政運営の長期的課題として抽出して,分析した。政府推計を再現するとともに世代間の負担格差を分析できる財政モデルを開発し,具体的な政策課題として,最近の医療・介護保険改革と人口推計の変化が積立型保険への移行に与える影響を評価した。2005年の介護保険改革,2006年の医療制度改革は,積立方式の移行期の保険料率の上昇幅を大きく抑制することがわかった。2002年と2007年の将来推計人口で比較すると,新しい人口推計のもとでは,均衡財政で運営した場合の保険料負担のピークが上昇するが,積立方式への移行を図ると,人口変動リスクのいくらかを吸収していることがわかった。 こうした研究成果を踏まえて,財政の持続可能性を達成するための中期的課題(基礎的財政収支黒字化,債務残高GDP比の安定的引き下げ)と,より長期的な社会保障の財源調達を包括した視点に立つと,中期的には行政改革による歳出削減を進めることと,消費税率引き上げによる歳入増を組み合わせるとともに,長期的な社会保障費用増大に対処するために早期に保険料を引き上げる戦略が必要であるといえる。この研究では,このような戦略の定量的な情報も構成した。
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