研究概要 |
本研究は、生産過程に固定資本が明示的に導入された場合、生産過程の機械化などの生産技術の変化が、経済システムにいかなる影響をもたらすかについて考察するべく企図された。その際、スラッファによって創始されたポスト古典派接近法とヒックスによって再興された新オーストリアン接近法に焦点を当てながら、多岐にわたる論点を検討することを目指して開始された。 まず、生産過程の機械化の結果、経済システムの均等利潤率は上昇するという「置塩定理」を検討することから始めた。その際、機械化による均等利潤率の上昇という論理、および、その分析枠の妥当性を明白にしようと努めた。作業経過においで、生産過程への機械化導入初期時点をあつかう先行研究を検討するうち、予想以上に多様な、機械化問題に関わる要素を整理し関連づける必要が生じた。そのような意図を持って、生産過程の機械化問題を体系的に取り扱った最初期の研究であるリカード機械論とそれへの反応を概観することにした。その最初の研究成果が、「技術変化と労働雇用」(平野,2007a)である。 当該論文で取り上げたのは、セー法則による補償説、マルクスによる資本主義制の不安定要因への展開、代替の原理による反論、森嶋の論理パズル、アドルフ・ロウの移行過程分析、ヒックスによる新オーストリアン接近法などである。また、技術進歩にともなう労働熟練度問題への言及も試みた。 次に、ウィクセルを取り上げ検討した。ウィクセルの機械論は、本研究課題にとって、両義的である。彼の分析は、「代替の原理」を柱とした限界主義的手法による、リカード機械論の批判的再構成である。他方で、固定資本を取り扱う独創的な枠組みは、ポスト古典派および新オーストリアン、両接近法ともにインスピレーションを与えたと考えられる。特に、ポスト古典派的固定資本分析への影響を考察した成果が「「資本」と自己補填的構造」(平野,2006)である。 ポスト古典派接近法の特徴は、生産的活動と消費的活動という非対称な行為概念を用いたうえで、分業社会を相互依存の経済システムとして再構成する点にある。この「非対称な行為概念による、相互依存のシステム」という視点を「「労働」の意義に関する3局面」概念へと展開し、技術進歩をともなう経済発展の末に到来している、現代日本社会の格差問題への応用を試みたのが、「広義の労働熟練度と格差問題」(平野,2007b)である。
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