研究概要 |
古典派金融経済学は,一方ではジョン・ローに端を発する「真正手形学説」,他方ではデイヴィッド・ヒュームが明快に定式化した「貨幣数量説」と対峙する形で,18世紀にアダム・スミスによって初めて体系化の試みがなされた。スミスは,しばしば真正手形論者と混同されてきた。だが彼の理論は,兌換性に基づき,中央銀行による金融管理の方向を目指した古典派貨幣理論の端緒であったことが,彼の原典とそれを取り巻く(これまで見過ごされてきた)種々の資料とに照らし合わせて検討することでわかる。これが本研究の第一の成果である。 古典派金融理論は,デイヴィッド・リカードウによって体系化された。それは,兌換性に基づき,ルールと裁量とを柔軟に組み合わせた(金融思想史上最初の公開市場操作の体系を導入した)金融政策論をもち,それどころか国立銀行設立案は後の現代的な意味における金融思想史上最初の「中央銀行」構想であったと言えるのである。こうしたリカードウの金融論は,一物一価の法則に基づいた非貨幣数量説による理論体系をもち,地金論争ならびに通貨論争の参加者たちの中で群を抜いて卓越したものだと評価できる。 こうしたスミスとリカードウの研究を主軸に,本研究は,わが国でおそらく初めて「地金論争の源流」ともいうべきボイド=ベアリング論争を,その論争の始まりから,19世紀全体を通じての,さらには20世紀の最初の半世紀にまで及ぶ余波の整理を行なった。さらに,古典派経済学者の代表的な一人にして,ジョン・メイナード・ケインズによって「最初のケンブリッジ派経済学者にして貨幣的経済学者」と称された,トマス・ロバート・マルサスの金融思想とその影響を20世紀に至るまで(ほとんどわが国で例を見ない緻密さで)追求した。
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