研究概要 |
我が国においては医療費の増加が大きな問題となっており,在院日数や治療成果の適正な評価は今後の医療政策を考える上で重要な課題となっている。本研究では,これらの観点を踏まえて次の4点についての研究を行った。 第1は,大腿骨骨折における在院日数・治療成果データの分析である。ここでは平成14年4月の診療報酬改定の在院日数・治療成果への影響の評価を行うとともに,これらに影響する因子についての検討を行った。 第2は,白内障における入院日数の分析である。白内障治療のための手術は標準化されたものであるにも係わらず,病院ごとに在院日数に大きな差がある。これを計量モデルによって分析し,在院日数に影響を与える要因についての分析を行った。 第3は,医療データの計量分析に関する理論研究である。治療成果は質的データであり,在院日数は整数値を取る計数データである。また,治療成果と在院日数は退院という一つの行為で決定される。すなわち、在院日数と治療成果の間には同時決定性の問題が存在する。在院日数と治療成果の関係について個別に分析した研究はこれまでに存在するが,これらを統合的に扱った研究は存在しなかった。これまでにない分析方法が必要となるが,ここではこの問題に対応するため,データ(質的データ・離散データ・制限従属変数として)の理論的な分析を行い,新たな計量モデルを作成し,その推定方法に関する研究,推定プログラムの開発などを行った。 第4は,上記の研究で,開発された手法・モデルを応用した企業の雇用調整行動の分析である。開発された分析手法を用いて検証し,1990年代半ば以降に,大企業の雇用行動について構造変化の有無を明らかにした。 一連の研究を通して,モデルや推定方法の開発・理論分析を通した計量経済学・統計学への貢献,分析結果の医療経済学への貢献,さらに労働経済分析への応用などの面で大きな成果をあげたと考えられる。
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