本研究は、平成14〜16年度に科学研究費補助金(若手研究(B))を受けて行ったEU大の労働移動に関する研究の成果を基礎にし、労働移動を資本移動との関連において捉えなおすことを目的とした研究である。本研究から得らた具体的成果は、研究成果報告書概要の裏面に記載の2本の研究論文を刊行したことである。第1論文では、以下の一点を明らかにした。(1)資本移動と労働移動は国家にとってもEUにとっても、国外または域外との間に境界を画する重要な要素になっていること、しかし、(2)グローバリゼーションの急速な進行により、EUは域内と域外の境界がますます曖昧になりつつあるという現実に直面していること、とりわけ資本移動に関しては管理は極めて困難になっていること、他方、(3)労働移動は資本移動と比較すると、量的管理が相対的に容易であることから、国家またはEUがそのアイデンティティの基礎となる空間を画するのに、資本移動よりむしろ労働移動への規制が選択されることであり、EUがEU市民のモビリティ促進に熱心に取り組む意義はそこに見出される。しかしながら、(4)国内労働市場を編成する権限は依然として一義的に加盟国にあるため、EUのモビリティ促進の政策目標は葛藤を生じさせるものとなっている。第2論文は、近年ツーリズム関連産業がEUにとってますます重要になりつつあることから、当該産業に照準を絞り研究を行ったものである。この論文では、当該産業の労働市場の特徴やEUのツーリズム産業関連政策の展開を整理したうえで、当該産業の発展がEUの制度的発展、EU横断的な企業活動の活発化によって生み出されるネットワーク、市民権の拡大、EUの地理的拡大などと密接に関連していることを明らかにした。
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