研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、初期時点における資産・所得分配の格差が一国の長期的な経済成長にどのような影響を与えるかについて理論的に吟味し、これを政策的な視点から途上国の分配と成長の問題に適用できるようにすることであった。現時点では、分配と成長に関する政治・経済アプローチに基づくあらたな理論モデルを構築し、長期的な成長率をより高める税率の決定やモデルの定常均衡の性質について検討している。本モデルは、政府の生産的な支出による民間主体に対する生産への外部効果と消費的な支出による厚生水準に対する効果を含むモデルを採用している。また、一国の民間主体を富裕層と貧困層に二分化し、政府の消費的支出に対するそれぞれの効用関数における政府の評価の違いや、民間主体に占める各層の割合などが経済成長や最適税率の決定にどのような影響を与えるのかについて考慮している。当該分野における既存研究では、政府支出による生産への外部効果や消費的支出に対する家計の厚生水準に与える効果のいずれかのみが扱われているか、またはいずれかが大きく強調されているために最適税率に関する理論的帰結は比較的単純なものになるという傾向があった。これまでの実証研究の結果は分配格差と成長との関係が単純な線形関係にはないことを示している。この点に関して本モデルでは政府支出の生産に対する外部効果と家計に対する厚生水準の双方を圧がいながら、さらに民間主体を富裕層と貧困層に分けていることに大きな特徴をもっている。その理論モデルにおいて明らかにされたことは以下の通りである。最適な均衡税率は複数存在することが可能であり、これは一般に成長率を最大化する税率と一致する保証はない。しかし、政府の政策によってこれら二つの税率を一致させるか、または近いものにする可能性があることを導出した。また初期時点における他の経済的な条件が同じ国であっても、富裕層と貧困層の割合が異なると均衡税率が異なったものになり、貧困層が大きい国ほどより低い税率が選好されることがわかった。成長経路については分析結果から、均衡点の近傍において不決定性が生じることがわかった。理論モデルのさらなる検討と、これに基づく数量分析は今後の課題である。
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春夏秋冬(中央学院大学創立40周年記念論集)
ページ: 51-77
Collected papers for the 40^<th> anniversary of Chuo Gakuin University
中央学院大学商経論叢 20巻・1号
ページ: 108-118
Review of Economics & Commerce(Chuo Gakuin University) Vol.20, no.1
ページ: 107-118
110002275097
中央学院大学商経論叢 第20巻第1号