研究概要 |
本研究の目的は,「事業イノベーションが持続しておきる条件が知識ネットワークに見いだせる」という命題を実証することであった。そのために事業を取り巻く知識ネットワークあるいはコンテクストの転換に注目した。 理論的枠組みとして,価値,主体,関係,行為という四つのコンテクストの組織間および社会レベルでの転換を提示した。その上で,事象として長寿企業の事業イノベーションを三つ取り上げ,それらがどのような条件でいかに起きたかにつき歴史,事例研究を行った。 まず1918年創業の松下電器産業について,偉大な創業者の創り出したコンテクストが創業一族外の専門経営者の手でいかに転換されたかを分析し,組織間および社会レベルで価値、主体、関係、行為のハイブリッドなコンテクスト転換が存在することを確認した。 次に,地域ブランド戦略を焦点に,1805年創業の坂元醸造と,1804年創業のミツカングループで共に創出された黒酢事業を分析した。前者は地域ブランド戦略を採用し,後者は採用していない。しかし両者の戦略類型は相互依存的に形成され,経路依存的ではあるが,それらの成立条件として,市場ルール形成,コミュニケーションメディアの存在,前者での地域粘着性技術の存在が見出された。これらは,組織間レベルでのコンテクスト転換といえる。 最後に,1924年創業の着物卸の東京山喜の3代目社長が成し遂げた再創業をとりあげた。感性哲学の立揚から,戦略を生存の目的と方法ととらえ分析した。結果,戦略概念では語り尽くせないものがあり,組織間レベルでの競創というべきものの存在が確認された。このようなコンテクスト転換は,イノベーションの方法自体の変化といえる。 事業イノベーションは,コンテクスト転換であり,時代の大きな変化の中で生き延びている企業に確認できる。さらに,それは20世紀型の競争戦略から,イノベーションの方法自体を転換するものといえる。
|