研究概要 |
2005年度から2007年度までのあいだに収集したデータの概要は,次のとおりである.5つの総合病院の産婦人科外来(もしくは助産師外来)において健診・診察16例,2つの産婦人科医院において健診6例(うち1例は,4回の健診を収録した),3つ助産所において6例である.これらのデータを詳細に書き起こし,一つひとつ分析を加えていくことを試みた.分析のトピックには,次のものが含まれる.1)様々な環境における指示の実践:妊婦健診における超音波検査では,超音波モニターと妊婦の腹部という2つの知覚野は空間的に,かつ知覚様式上,分離している.そこでは,妊婦の腹部や胎児への指示は,相互行為の展開にふさわしい様々なやり方で達成されていた.また,逆に,超音波診断装置を一切使わない,触診による健診の場合も,指示において様々な知覚様式・知覚野が,複雑なやり方で用いられていた.2)診察・健診の空間的構造:身体や道具が様々に配置されることをとおして,相互行為のための空間が構造化され,その構造化された空間が,相互行為の展開を秩序付ける.その錯綜したメカニズムの一端を明らかにすることができた.また,医師が用いるノートも,空間的に構造化され,その空間構造が,相互行為のための重要な資源になっていた.3)妊婦および患者の側の反応の組織:妊婦や患者が医師や助産師の説明に対して産出する小さな反応,様々な感情表現が,医師・助産師の説明の方向・診断に影響を持ちうる.また,健診における妊婦の側からの問題の提示のやり方が,一次医療の場合と構造的に異なること,そしてそれが,相互行為全体に対して様々な影響を持ちうることも,明らかにされた.以上の知見はいずれも,実際の相互行為の詳細な分析によって初めて明らかにできたものである.(研究協力者:白井千晶,小村由香,川島理恵)
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